宵星レンズ

農作業着「たつけ」を縫ってみた

2025-09-30 21:28:14
2025-09-30 21:37:56
目次

こんばんは。
こちらでは過ごしやすい気候になってホッとしています。お住まいの地域ではいかがですか?
めずらしいかもしれない服を縫ったので、今日はその話です。

「和裁」と言うとどんなものを思い浮かべますか? ゆかた、振り袖、羽織、雨ゴート、といった、呉服屋さんで扱うような衣類が頭に浮かぶのではないでしょうか。私はそうでした。

でも、洋服(西洋の服)が普及するまでは、日本での衣類は和服が中心で、それらは既製服もあったかもしれないけど、家々で縫われていたものだった、と私は理解しています。そして、和服の中には外出着だけではなく、農作業などに着る作業着もあったようです。その中の一つ、岐阜県の石徹白(いとしろ)地区に伝わる「たつけ」という衣類(ズボン)を縫ってみました。

和裁・和服の中には作業着もあった、ということを、私は「たつけ」の作り方を買った石徹白洋品店さんのサイトで知りました。そう言われてみれば、そりゃそうだよな、と思うのですが、サイトを拝見するまでそういったことはまるで知らずにいました。

石徹白洋品店
https://itoshiro.org/

それで思い切って「たつけ」の作り方を購入してみました。縫ってみての感想は、「よくこの作り方を伝えてくれた!」ということ。石徹白洋品店さんは昭和一桁生まれの方々から縫い方を教わって、現代的にアレンジするところ(使う布の幅など)はアレンジして、冊子(とPDF)を作られたそうです。その仕事が間に合って良かった! と感謝しています。それぐらい、洋裁の常識とはまるで違う仕立て方で、合理的で、着てみて魅力的な服です。

「たつけ」がどんな服で、どうやって仕立てるのか、ということはYouTubeで公開されています。ご興味のある方はご覧になってください。たぶんびっくりします。(寸法の出し方も説明があるので、石徹白洋品店さんのサイトで作り方が販売されている他の衣類とは違って、「たつけ」は動画を見て作ることもできます。)
https://www.youtube.com/watch?v=svA5IWPskGA

今回縫ったものは、寸法が作り方通りではありません(作り方に載っている寸法を思い違いの考え方で変えてみた)。その結果、途中で寸法が10cmぐらい合わないところが出てきて、布を足す羽目になりました。なので、服の形というかシルエットは本とは違っています。少なくとも、後ろパンツの「まち(2枚目の画像で三角形に飛び出しているところ)」はもっと上から出るはずです。なので、あまり形や履き心地については言えないのですが、今回作ったものでも充分履き心地は良いです。それは、綿100%の生地で縫ったからかもしれないし(肌ざわりが良い)、少々(服の10cmは大きいですが…)のことは融通が効く形なのかもしれません。お尻のところにゆとりがあるので、ヒップがきゅっと上がって見える、という洋服的な「良い」見え方はしません。でもきゅっと上がってないヒップをゆとりをもって布が包んでいる、というのもなかなか着てみると良いものだと思いました。

それで、使った布は以前買って持っていたまっ黒のタイプライターで、これも「たつけ」の形に意外と合うなあ、と感じました。マットな風合いがゆとりのあるシルエットと合って、ちょっとエレガントな感じ。ストレッチ素材ではありませんが、要所要所にゆとりが入っているからか、しゃがんでも正座してもまったくきつくありません。ジャージのイージーパンツもいいけど、こんな服を着て日々暮らしたいなと思いました。

ここからは余談ですが、私のMastodonでの発言をご覧の方なら、私が何回か「着物が着たい」「着物を自分で仕立てて着てみたい」という話をしていたことをご存知かもしれません。着物を仕立てて着てみたい、というのは2011年から思っていたことで、たぶんいろいろなストレスから、心が美しいものを求めていたのだ、と自分では理解しています。その思いは近年にもあって、着物の型紙ショップを見つけたり、作れそうな帯の仕立て方の本を買ったり、と、言ってみれば「自習」を続けていました。

でも、着物のことを知って、何が必要で最低限でも(自分で縫っても)幾らかかるか、ということが計算できるようになると、「それだけの額は出せない」という判断になって、どうしようかと苦しんでいました。私の求める条件で、自分で縫ったとしたら、できあがるのは「どこにも着ていけない不自然な着物」になることも、分かりました。
せっかく心に浮かんできた夢だし、やってみたいことはやってみたほうがいいんじゃないか、と思っていたのですが……。

そんなある日、ネット検索であちこち見ていて石徹白洋品店さんのサイトに出会って、私が知っていたのとは違う、和裁の服作りを知りました。石徹白地方に伝わる服の作り方の本は何種類か出ていて、どれも着てみたいなと思いました。着物地から作ることを前提とした服だけど(作り方は現代の110cm前後の布幅に合わせて書かれています)、「はかま」も私が知っている「はかま」とはまるで違うし、「かるさん」は「カルソン」から来ていたりして? なんて想像するのも楽しい。和裁を元にした服作りだけど、着物のような着付けは必要なく、洋服のようにさっと着られそう。
いいなこれ、これなら作れる、これなら着られる……とわくわくして眺めているうちに、私の中の何かが解(ほど)けたのが分かりました。着物、着られなくてももういいや、と思いました。

日本人だから和裁の服作りを恋しがって、それが満たされたのだろう、という乱暴なまとめにはしたくないです。
でも荻原規子さんの本『ファンタジーのDNA』ではありませんが、何か、太古の昔と言ったら大げさか、大昔から引き継がれるもの、それを知らないはずなのにそれに引きつけられる……ということの不思議を思います。
(『ファンタジーのDNA』では神話や昔話と個人のファンタジー創作の関係をとても注意深く論じていて、私にはここでは「こんな話」とまとめられないのですが、ご興味のある方は読んでみてほしいです。)

前側を撮った画像。黒くて分かりにくいですが、パッチポケットを付けています。

黒い布で縫ったたつけの前側

後ろパンツが外側になるように半分に折ったところ。特徴である後ろパンツの「まち」が飛び出しています。(作り方通りに作っていれば、もう10cmぐらい上から出ていたはず)

たつけの後ろパンツが外側になるように半分に折った様子

ウエストの始末。ゴムで絞って、共布のひもも通しています。(両方使うのが好み)

今回縫ったたつけのウエスト始末(ゴム+共布のひも)

この記事を書いた人

鳥谷灯子(とや とうこ)

こんにちは!手作りや読書、文章を書くことが好きです。Webサイトはこちら http://eveningstar.sakura.ne.jp/ これまでのブログはこちら http://lenses.sblo.jp/ 日々の愉快な(自分で言う)おしゃべりはMastodonでどうぞ! https://gingadon.com/@ginmokusei